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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

正直者の朝成は、気懸りになり出した。ままよ、彼の頼みを取次いでやればすむわけである。六波羅へも、なんぼなんでも余り、足を絶ち過ぎていた。こんな折こそ、口実にもなる。出向いて、吉次の依頼を、ひとつ懇願してみよう。

年暮に塗更えた牛車を、彼は久しぶりで六波羅へ向けた。

「六波羅へでござりますか」

付いている雑色は、いぶかしげに主人に念を押した。

「うん……六波羅へじゃよ」

だが、西八条の華麗な門をくぐると、彼はいやな気持になった。つい保元平治の合戦の前までは、眇目の子の安芸どのか――ぐらいに下に見ていられた清盛が、内大臣からまたたくまに、太政大臣――嘘のような事実である。あたりの豪壮に圧されて、彼は急に、貧相なわが身が顧みられるのだった。

「ホ。おめずらしい」

牛車を降りたところで、入道殿の三男宗盛に会った。宗盛が覚えていてくれるくらいなら――と何かほっとして、

「相国はおいで遊ばされるか」

「おります」

「あまりごぶさたしたので」

「いや、折角ですが、お訪ね下すってもむだでしょう。何せい父は忙しくて、きょうも御所のお使いを迎え、一族も大勢集まって、何やら評議のようですから」