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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
「……ははあ」
自分の至って閑そうな顔が、朝成は手持ちぶさたになった。
「……では。よんどころありませんが、貴方にまで、そっとお願いいたしますが」
「この宗盛でよければ、折を見て父に取次いでおきましょう」
宗盛は、一室へ迎えて、彼のはなしを聞いてみた。
政治上の問題でもあるかと興を持っていたところが、つまらない奥州の一商人の紹介なので、宗盛は見下げたように、途中からそら耳で扱っていたが、
「いや、それどころでない。貴方の顔を見て、思い出した事がある」
と急に、朝成の思いもかけない事を云い出した。
「ほかでもないが、それは貴方の奥方の以前の子――つまり義朝の遺子のひとりで、鞍馬へ上せてある末子があったでござろう。そうそう山では遮那王とか名づけられているそうだが……あの牛若という童じゃ」
「それが、どうかいたしたか」
「鞍馬寺の僧からも、山役人の方からも、たびたび、よからぬ状書が届いている」
「……どんな?」
「僧をきらって、武道にばかり熱中し、ややともすれば、師僧にまで逆らうという」
「その儀は、かねがね妻も案じておる事で、たびたび意見の手紙をつかわしておりますが」