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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

吉次は、意地のわるい返辞を書いて、その文使いに持たせてやった。

相国からご不興をうけたかどとは鞍馬の稚子を繞って、近ごろ諸天狗が出没するという怪聞でしょう。うわさはなかなかあるようですな。てまえも仲間の者から疾く聞き及んでいます。

従って、あなたの方も、もうあてにはしておりません。策を凝らして方向を計っているところです。ひとつてまえも諸天狗の仲間入りをして、人界をあっと云わせてみようかなどと商人にあるまじき空想などに耽っておりますよ。

砂金の嚢など、そんな物に入りきれる夢ではありません。

ご放念、ご放念。

それから彼はひどくさばさばした顔つきで、実は、皮肉や興を交ぜて、認めた返辞の文句を、もう一ぺん胸に繰返して、

「ほんとにそうだ。……奥州から何百里、年々の往還りも生命がけだ。同じ生命がけなら、でッかい事を目企め」

と、空想から自信へ移しかえて、うむと、大きく腕拱みをしはじめた。

いくらでも空想の中に遊んでいられる男とみえる、陽が暮れたのも知らないで瞑目していた。奥州から都まで、年に二度はきっと脛で通っている男なので、自然学識のない禅坊主みたいな、太っ腹だけは出来ているものとみえる。