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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

「おや、何を鬱ぎこんでいらっしゃるんですの」

潮音はそれへ結び燈台を運んで来て、彼の横顔から程よい距離へすえながら、おかしそうに微笑んだ。

「……もう燈りが来たか」

「暗いではございません」

「あ、あアっ」

と、伸びをして、両の拳を天井へ突き上げながら、

「燈りとなったら、また飲んで遊ぼう。翠蛾にも来いといえ。ほかにいる妓たちもみんな呼び集めろ」

「お姉さまは、今夜から明日もあさっても、六波羅様へ召され切りです」

「三日も」

「ええ」

「ばかだなあ。何でそんなに身を縛られに。――生きているかいがあるのか、それで」

「でも、他ならぬお館ですもの。行かなければ、生きてゆかれません」

「じゃあ、おまえと、いるだけの妓たちだけでいい。酒や楽器を取りそろえろ」

「わたしもこれからやがて、化粧を急いで、小松谷の重盛様のお客招きへ伺わなければ……」

「なに。おまえも出かけるって。よせっ、止めちまえ」

「そんな事したら……」

「病気といえ。いくら都の白拍子は、みんな平家の息子や、一族たちの為にあるようなものだとはいえ、まさか招きを断ったからといって、白拍子を死罪にはすまい」

「されるかも知れません」