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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

やがて野武士のほうが云う。

「……何か、きょうも常磐様からお託しがあったか」

「はい、お手紙を、いつものように、お預かりして参りました」

僧は、辺りを見まわして、兄の手へそっと渡す。――野武士は、その手紙を、額に押しいただいてから懐へ納めた。

「これだけか」

「ええ、きょうはこれだけでした。――が、お言葉の上で、こう仰っしゃってでございました」

「牛若様へ、お言伝てか」

「いや、牛若様には聞かして賜もるな。ただ貴方や他の方々の心得までに――とのお断りで、鞍馬へ折々にする便りも、これが終りと思うてくれ――との仰せでした」

「……ウム。近頃の風説で、一条殿の身辺へも、六波羅の眼が注意を向けだしたようだとは、わしも聞いている」

「そうです。良人のため、良人の一族のためじゃ。悪しゅう思うてくれるな。牛若様をはじめ亡き義朝様の遺子三人の者には、再生のご恩のある今の良人に、禍いをかけては済まぬ。また再嫁する折に交わした、良人との約束もやぶる事になる。そう私の前もなく掻口説いてのお嘆きでした。ほんとに前に坐しているに耐えないようなご苦悶に見えました。よくよくなお覚悟と思われまする」