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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

「ご無理もない……」

ふたり共、黯然と、眼をあげて、星にしばだたいていた。

「光厳、よく分った。もうわしも鞍馬からお便りをいただきには降りて来ぬ。――が、牛若様のお身については、われわれ旧臣もおる事、必ずともお案じ遊ばさぬようにと――今度お目にかかった折、そっと申し上げておいてくれ」

「はい。……けれど、私にも、余り館へ足ぶみしてくれぬようと、きょうはご念を押されましたから、やがて秋にでもなって、知恩院の説教の莚へでもお見え遊ばした折にそっとお耳打をいたしておきまする」

「いつでもよい。……が光厳、おまえも気をつけろよ」

「え、注意しています。……でもよく常磐様には、十年前、六波羅へお引かれ遊ばしたあの時、わたくしに匿われた事などを、役人に責められても、お口に出されなかったものと、今でも時々、あのお方の意志のきつい事には驚かれまする」

「あ。……長話しをしていて人目につくといけない。では光厳」

「山へお戻りになりますか」

「ムム夜のうちに」

「では、いずれまた」

ふたつの影は別れた。

光厳は、堤へ上ってからも、ややしばし遠ざかる兄の影を見送っていた。

「……ああ、よく一条朝成のやしきへ、法話に来る若僧だ。