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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

「きっと、吉次が、お会わせいたします」

「それから奥州へ行こう。――おまえのいう通り、藤原秀衡とやらを頼って」

「都を脱けて、武蔵国あたりまで行けば、もう安心ですが、そこまでがひと骨です。慌てちゃいけません。吉次は大人ですからね、任してお置きなさい」

「……うん」

「あ。素足でしたっけね。血が……。牛若さま、お痛くはありませんか」

「痛くなどない。はやく行こう都まで」

「お待ちなさいよ」

吉次は、そこらに落ちている竹竿を取って、堂の床下から何か掻き出した。

苞にくるんだ土民の衣裳やら草鞋などであった。牛若の衣裳はすべて脱がせ、代りにそれを着せて、汚いぼろ布で顔をつつんだ。背には背荷い梯子とよぶ物を負わせて、短い山刀を腰にさして与えた。

「これでいい」

彼は堂の棟木に掲げてある古弓を外して、小脇に持った。すべてが前から手順がついているように運ばれてゆく。

もっとも彼とすれば、ここまで来るには二年越しの仕事だというだろう。牛若へ近づくにも、去年今年と何度、鞍馬詣りを繰返したかわからない。

また、その牛若を、得心させるまでにも、何度、説いた事かも知れないのだ。

いくら牛若が、人を疑わない性質でも、見ず知らずの吉次のいう事を、そう易々と信じるわけもないが、おととし鞍馬谷へ六波羅の兵が入って、附近に住む怪しげな者を一掃し尽して