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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

案ずるより生むが易いといった体で、先刻からの憂いが深刻だっただけに、彼は相形をくずして、子に甘い半面をむき出しに見せていた。

「嫁ぐと、心をきめましたからには、少しも早く嫁ぎとうございます。……それと、わたくしは、きょうまでも、なおお父上様にご苦労ばかりかけて来たように、生れつきの吾儘者ですから、嫁いでも、この吾儘だけは、おゆるし下さいますかどうかを、もう一度、山木判官様へ、念を押して、お訊ねおき下さいますように」

すると、時政は、自分が先の聟でもあるように、手を振って云い断った。

「いや、その事は、親として、わしからも幾度も云った。――事実そなたは、吾儘でない方ではないからな。――が山木判官が云うには、そこがむしろ、ご息女のよい所、大まかな明るいご性質と、わし以上、そなたの短所も承知の上のはなしだ。なお、念はおしておくが、気に懸くるには及ばぬ。……ははははは、嫁君とても、生ける観世音ではないからな」

八

時政は、腰を上げた。

さがしても苦労らしいものはない幸福な父親という顔になって、

「政子。もどろう」

と、歩み出した。

政子は、まだ御堂の縁にあった。