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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

(福原へ遷都などとは以てのほかである。いったい何の必要があって――)

と、囂々たる反対や不平を招いてしまった。

藤原氏などの遣口なら、

(一門の栄華を固める為ではない。国富のためまた、庶民のための国策である)

と、政治らしい政治として発表するであろうに、入道は、そんな上手もなく、また厖大な地域には、桑田もあり、塩焼く海女の小屋もあるうちから、もう宏大な一門の別荘などを建て出したものである。

それもまだいいが。

政治機関の一部を移すのと同時に、孫や子や一門の子女など伴れて来たり、浪華や都の遊君等のよい出先とするに至っては、いかに入道が、自己の煩悩と、国政とを、混同している頭の持主かがよく分ろう。

いったい入道の頭脳というものは、時の公卿や僧侶には見られない大理想も革新的な考えもいっぱいにあったが、よく窺うと、その大脳と小脳には壁がなかった。仕切のない大広間みたいな頭らしかった。

七

「何を思われたか、入道殿には、にわかに福原へ赴かれたそうな」

と、洛中に沙汰されてから、およそ一月余り後の出来事であった。

それは十一月七日の夜、戌の刻とおぼしき頃だったとある。