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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

彼は、七十七になっていた。

年ばかりではない。ここの住居も古びた。平治の乱から二十年、近衛河原のこの邸に、土龍のように住んで来た。――頼政はそう思う。土龍のようなと吾ながら思う。

何といっても、義朝が六条に栄えていた時代は、彼も源氏の名門の一として、共々華やかに暮していた。

では、なぜ平治の乱に、その義朝へ協力を約してあるくせに、合戦が起ると裏切って、身、源氏でありながら六波羅へ奔って清盛へ味方したか。

そして戦後あんなにも沢山な源氏方が、毎日のように、目のさきの河原で斬られたり、各地で掃滅されているのを見ながら、のめのめと、自分のみ助かって来たか。

臆病者よ。

侍にも似げなき人間よ。

禽獣にもひとしい。

禽獣でも恩は知る。情はある。

人扱いすな。

武門の生れ損いよ。

あらゆる蔑みの言葉をもって、源氏を惜しむ人々は云う。いや、平家の武士たちも挙って云う。

それから二十年。彼はその中にじっと生きて来た。

何をいわれても黙々として。

が、彼は、自分の胸には独り慰めも持ち、毅然たる信念を抱いていた。

なるほど、平治の乱には、はっきり義朝を捨て、六波羅へ加担した。