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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
宮のご密旨もそっと伝え、同所の北条時政とも語らいました。ほぼ彼の地方の下固めはできておるものと見てよかろうと存ずる。――その他、坂東、木曾、北陸の諸国にも、事あらばと待つ者が、どれほど、唖を装っているか知れません。……ただその連絡がないだけです。また、頼朝をのぞいては、敢然とひとり真っ先に起って、旗を挙げるほどの勇気と力には欠けているだけのものです」
「その人々は」
「申しきれないほどの数です。後で自分の書いた物でお示し申そう。なお、歩き洩れた地方もあるなれど、昨年来、浄海入道の暴状は日に募り、いよいよ地方の武家どもに、平氏討伐の念を固めさせて来たので、機は今ぞと、立ち帰って来た次第です。頼政殿、もうこれ以上待つものは何もありません。後は、もういちどそれがしが伊豆へ打合せに下ると同時に、あなたが起つまでの事です。――時にあなたのお心構えももうできておりましょうな」
四
夜霞がたちこめていた。若葉の陰の月までが濡れている。四月九日の夜半、三条の大路に人影もない。
「すこし待て。すこし……」
馬上の影が、先へゆく駒をよびとめた。
――何用かと振向くと、後なる古直衣の老武士は、手綱を抑えたまま鞍つぼへ屈みこんでいる。