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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

わけて、八の文字は吉兆であるから、八百部転読でよかろうではないか――と仰せられたとある」

政子は黙って聞いていたが、良人がそんな点にまで気を懸けていたり、吉兆をよろこんだりしているのを、何か微笑ましく見ているという風だった。

修養のひとつとして、彼女も法華経は修めているが、良人の朝暮の転読は、そんな立願からであったのかと、今初めて聞いて、その信仰心にはすこし驚いた。そして自分の心の中には、常識としてはあるが、まだそれまでの信仰はないのにも気づいた。

「――ついては」

と、頼朝はなお云いつづけていたのである。

「お許が、あちらへ参ったら、覚淵御房にお会いして、伊豆、箱根、三島の三社へ、頼朝の代りに、素懐の大願成就の願文を捧げていただくように、お願いしておいて欲しい。――なおまた、八の吉字に因んで、米八石、絹八匹、檀紙八束、薬八袋、白布八反、漆八桶、綿八梱、砂金八両。――そう八種の物を、それぞれへ頼朝の名を以て寄進の事を、お計らいを仰いでおくように」

「かしこまりました」

「頼んだぞ」

「はい」

と、いいつけを受けてから、

「――では、けさの朝餉が、しばらくの間の、おわかれの膳部でございますね」