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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

「ちょっと、相模の父の家へ、用たしに行ってくる」

と、厩から馬を曳き出して遽に出て行った。

「郷の家に用事ができた」

「叔父貴から手紙が来た」

「三島まで買いものに行く」

などと、それから続いて、ここの家人が次々に、配所から暇を告げて出て行ったので、配所は急に、無人になった。

けれど、入れ代りに。

土肥次郎実平、工藤介茂光、岡崎四郎義実、宇佐美三郎、天野遠景、加藤次景廉などという人々や、日頃もよく見える面々が、一名ずつ頼朝の室へ招かれて、

「異存なあるや?」

と、十七日を旗挙げと決めている――意中の底を打明けられた。

もとより、将来の大計とか、当日の戦略とかいう機密は、頼朝と時政のふたりだけが、胸にたたんでいた事だった。

「この期に、何の異存がありましょう。あなたがお起ちあれば、今が今でも、日頃の誓いを、陣頭で示すだけの用意はいつでもしております」

誰の答えにも、ためらいは見えなかった。むしろ実行に迫ってから、各※(二の字点、1-2-22)の意地には、なお強烈なものが加わって来たかに感じられた。――よしっと、頼朝も心のうちで、この計画の可能性が、多分に信じられて来た。