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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
と、恐い顔のまま叱咤した。
敵の武者の乗りすてた駒が、鞍のまま、放牧されてあるように、彼方此方に駈けまわっていた。合戦をよそに、水をのんでいる馬、草を喰っている馬、すこし気が狂れたように嘶いてばかりいる馬――など沢山見えた。
「殿っ。これへ」
一頭の鹿毛をつかまえて、遠景が頼朝にすすめていると、一かたまり雪崩れ合って来た味方が、
「や。殿には、まだここに」
と、その無事を、奇蹟のように驚きながら、駒の前後を被いくるんで、無二無三、山の深くへ索きこんで行った。
景親たち平家勢は、
「逃がすな」
「あれこそ頼朝」
と、後から気づいて、真っ黒に追って来たが、高綱、景廉などの烈しい矢に、ばたばたと死者を出したので先鋒はみな身を伏せ、矢風が熄んだと見ると、猛然立って、追いかけた。
四
「時政は。――時政父子は、後から見えぬか」
逃げのびて行く道々も、頼朝は幾たびとなく、左右の者に云った。
「駈けもどって、殿軍されているまに、お慕い迷れたとみえまする」
と、供の人々は答えた。
その中に、土肥次郎実平がいた。実平の健在を見ると、頼朝は、
「いたか」
と、やや力づよい顔をした。