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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

「寔に、お気の毒な仕儀でござるが」

云い難そうな口吻で、そう伝えかけると、広常は、もう聞いていたのであろう、

「ご機嫌がお悪いようでござりますな。ご不興を蒙ったかどは、幾重にも、広常が落度に相違ござりませぬ。――自身、御前に罷り出で、篤とお詫びいたさねばなりませぬゆえ、もう一度お目通りのおゆるしを賜わるように、左右の方々へも、お取做しの儀願い入りまする」

と、頭をさげた。

辞色も静かで、丁寧には云っているが、上総介広常も、土のような顔色をしていた。心のうちの穏やかでない事は当然わかる。

二万の兵をつれて、子や孫や一族どもまで語らい、ここへ見参に来ながら、頭から今のように叱りつけられて、何でそのままこの陣門を退がられよう。老将が、この年まで覚えない恥をさえ感じたにちがいない。――身も顫えてくる、侍の面目をじっと噛んで躁ぐ心を踏み怺えているにちがいなかった。

「……では、暫時」

同情にたえないふうである。武士はまた、幕営の奥へもどって行った。

その姿が、隠れるとすぐ、

「ちッ、父上っ」

「大殿っ」

「広常殿っ。かッ、帰ろうっ」

彼のそばにいた子息や一族の誰彼は、左右から彼の手や鎧の袖を引いて、憤然と促した。