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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

鶴ヶ岡を中心として、数万の兵馬は、彼の発進を待っていた。

頼朝は、三度、鶴ヶ岡に上って社前に拝跪した。

この日の出陣の祈願は、この山初めての盛儀だった。

走り湯権現の良暹は、大勢の僧をつれて会し、法華、仁王、軍勝の三部妙典を勤行して、鎮護国家の祷りをあげた。

その日。

鎌倉の海は、波が高かった。しかし、初冬の空はすみ風は冴えて、山下の数万の兵も、その間、粛とひそまり返って、祷りの心をひとつにしていた。

やがて――

進発の貝の音がながれた。

旗が、長刀が、うねうねと、山伝いに遠のいてゆく。けれど、後から後から続く兵馬は容易に絶えなかった。

別働隊の加藤次景廉や甲斐源氏の輩は、駿河国で出会い、いよいよ奔河の勢いを加えた。

二十日。――全軍は駿河国の加島についた。

「おお、見える」

武者たちは、物珍しげに手をかざした。陣地となったすぐ前には、富士川の大河が横たわっている。けれど眼に大河はない。彼方の岸辺にひめられている無数の幕と、そして楯や防材を組んだ塁や、また、遠方此方の森や民家の陰にいたるまで、およそそれの見えぬ所はないほど赤い旗の翩翻と植え並べてある盛観に、