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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

「あな、目ざまし」

と、思わず眼をみはったのであった。

けれど、その感嘆は、坂東武者たちには、すぐ反対な苦笑になった。

「さすがに、派手やか」

「うわさに聞く、福原の船遊びと、間違えているのではないか」

「一矢、挨拶いたそうか」

「待て待て。まだ射よと命令の出ぬうちに、徒らな、弓自慢は、蔑まれようぞ」

その日は、陣の備えに、源氏方は暮れた。

「はて、虚をついて襲せかけて来る様子もないが」

夜になると、陣の囲いを出て、兵どもは、河原へ出て、敵方の陣地のうえに、ぼうっと赤く映している篝を眺めていた。

二

オーイと呼べば、敵の陣からもオーイと答えそうな気がする。

この十数日は、大雨もなかったので、富士川の水は、星明りでも底がすいて見えそうなほどきれいだった。河の中ほどにも、所々、洲肌が現われているのを見れば、流れのふかい所でも駒の脚で越え渡るに難くはなさそうに思われる。

「おい。……風のあいまに、笛の音がしてくるぞ」

「どこから」

「対岸から」

「嘘をいえ、この合戦に」

「いや、鼓の音らしいものも聞えてくる」

「気のせいだ」

「そうかな?」

そう思えば、そういう気もして、何より明らかに聞えるのは、やはり水の音と、葭の騒めきであった。