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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
「――けれど、その九郎殿の真価を誰が知ろう?」
と、考えると彼の理想の実現も甚だ遠い気がするのだった。
たとえば、彼と会いたさに、それとなく、行き交う武者などに、
「鎌倉殿の弟君、九郎御曹子様のお住居はどこでしょうか。それとも、やはり大倉郷のお館のうちに、兄君とご一しょにお住いでしょうか」
などと訊ねても、
「鎌倉殿のご舎弟と?」
そんな人がいるのかと云わぬばかり怪訝な顔をした。ほとんどと云ってよい程、義経の存在などは、下のほうには知られていない。
「大倉郷の内にいらっしゃる」
その後、北条家へ出入りする自分の代人から、それだけの消息はさぐり得たが、近づくことはできなかった。何分にも、大倉郷一郭は、鎌倉殿の住居であるばかりではなく、東国軍の本営ともなっているので、家人以外の者が立ち入ることは望めなかった。
――で、今日も。
頼朝が三浦義連の亭へ招かれて外出すると聞いたので、その行列の中に、
「もしや、九郎殿が」
と、期待して遠くから見まもっていたのであるが、義経のすがたは、頼朝の前後にも、たくさんの将士のうちにも、ついに見出されなかった。
それから幾日か後だった。