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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

「兄のことばだ。いや鎌倉殿のおいいつけだ。心外なことはない」

「嘘を仰っしゃいませ」

「なに」

「あなた様が、そんな柔弱なご気質か否か、誰よりも、吉次はよく知っています。それだけに、吉次でさえも、身がふるえました。かりそめにも、源九郎御曹子には、亡き義朝様の血をうけつがれたお一方ではありませんか」

「鎌倉殿は嫡流でおわす」

「とはいえ、いかに何でも、平侍のするような卑しい役目を、しかも御家人たちの打揃っている晴の中で、わざわざ骨肉のあなた様へお命じなさらなくても」

「もう、その事は、云うてくれるな」

「申しますまい。けれどこれだけはお分りになっておいて下さい。――鎌倉殿のなされた事ははっきりと、故意でございますぞ。……これ見よ家人ども、わしは自分の弟に対してすら、かようにする。骨肉の情愛などにはひかれておらぬぞと、そう故意に、あなたの面目を犠牲にして、大勢へしてお見せになったのです」

「…………」

「一面にまた、あなたへも、兄弟とはいえ、わが命令には、平御家人同様、絶対に服従するのだぞ――と、暗に大勢のなかで誓わせたことにもなりましょう。まったく政治のために、あなた様という者を」