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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

いずれその前から、法皇のお耳にも入っていたにちがいない。義経の人間、義経の功労に対して、先に、検非違使へ補任との恩命があったが、義経は、

(兄のゆるしを待たずには)

と、固辞して、ただ恩命のありがたさに涙していた。

が、たっての院旨を、そんな私の理由で、再三拝辞することの畏れ多さに、遂に、任官の由を、鎌倉へ報じると、頼朝は、

(恐らく、義経が内々の所望によって、宣下せられたのであろう。義経が、この頼朝を疎略にいたす事、このたびばかりではない)

と、ひどく不興であったという。

そしてその返辞には、

(頼朝の代官として、平家追討使たるの役目は、今日以後、その任を解く)

と、いう沙汰だった。

義経は、兄の心を知るに苦しんだ。そしてその苦しみを、兄の怒りを解くほうへ向けようと心をくだいた。

そういう心境のままに、この十月、かさねて今度の恩命に接したのであった。――従五位下、大夫判官とよばれることとなり、同時に、院内ならびに参殿をもさし許されたのである。

八葉の車は今日、お礼のため、曠の殿上へと、その人を駕せて行ったのである。

「そういえば、あのお顔に、お欣しそうな影もなかった。