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しんらん
親鸞
吉川 英治
「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页
われこそは正しき仏陀の使者、破邪顕正の菩薩、孔雀明王がお旨をうけて参った者。――出てこずば、踏みこんで、愚禿の素首を打ち落すがよいか。――会おう、親鸞っ、出てきませいっ」
横たえている三尺の戒刀に反りを打たせ、大魔の吼えるように、ひっそりした庵室の中の一つ灯へ向っていった。
七
「おう」と、垂れこめた簾を徹して、その時、明らかな親鸞の答えがひびいた。次に――
「誰じゃ」それも親鸞の声であった。
静かに、簾の内の灯のあたりからその人が、起ってくる気配がした。弁円は、
「うぬっ、ここへ出てうせたが最後――」
八ツ目のわらんじをじりじりと縁近くへ踏みすすめ、手をかけている戒刀の柄は、もう血ぶるいをするかのようにガタガタとおののき鳴る。
――サラと簾を片手で上へかかげて、親鸞はそこから半身を見せた、そして、朱泥で描いた魔神のような弁円の顔をじろと眺め、その眦に、ニコリと長い笑み皺を刻むと、
「オオ」と、なんのためらいもなく――なつかしい人にでも接しるようにいって――つかつかと竹縁の端まで踏み出してきたのであった。
「――誰かと思うたら」手をさし伸ばさないばかりな親鸞の様子なのである。