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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

「おお、おそろいだの」国時は、礼儀をして、

「上人にも、度々」

「うむ……なんとのう、来てみたくなるでの」と、後ろをふり向き、

「証信」と、呼んだ。

「はい」と、従いてきた弟子のひとりが、上人の顔をのぞいた。

「……喉がかわいた。あの湯のみ場から、白湯を一碗もろうてきてくれ」

「お待ちください、すぐ持って参ります」証信は、湯のみ小屋へ向って、駈けて行った。

その後ろ姿を見て、権之助が、

「上人。――今あれへ行ったお弟子は、三、四年前まで、この地方の修験者の司として怖ろしい勢力を持っていた播磨公弁円ではございませぬか」

「そうだ、あの弁円じゃよ」

「変りましたなあ」権之助がつぶやくと、城主の国時も、

「あれが、元の弁円か」と、彼方の湯呑み小屋から、土瓶の湯と盆をさげてくる証信のすがたを眺めて、感じ入っていた。

三

そこで白湯を一碗のむと、親鸞は、もう八分どおりまで竣工かけている伽藍の足場の下まで行って、

「見事な棟木、結構な欄干、これはちと贅沢じゃの」と、つぶやいたり、

「来るたびに、眼にみえて、作事が進んでいる。これ皆、有縁の方々の尊い汗、贅沢とはいわれまい、信仰の集積、ただ、この伽藍が親鸞ひとりの隠居所となっては、いかい贅沢じゃ、そうならぬように、親鸞はこの棟木を負うた気で住まねばならぬ」