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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

「……親鸞さまじゃ」

「……お上人様じゃ」ひそかな囁きに、平次郎はそっと首をのばして本堂のほうを見た。その時本堂の内では今しも稲田の草庵から移された善光寺如来の御分身が、金堂厨子の内ふかく納められ、導師親鸞がおごそかな礼拝を終っているところだった。

「――やっ」突然、こう頓狂なさけび声を揚げて、平次郎は、すべての人が頭を下げている中から、たった一人、発狂したように飛び上がった。

導師親鸞聖人のそばには、大勢の御弟子たちが従いていたが、その中に――親鸞のすぐうしろに、俗体の女すがたが、ただ一人まじっているのであった。

「――お吉だっ。……オオお吉にちげえねえっ」彼はふらふらと歩き出したが、すぐ群集につまずいて群集の中へ仆れた。

四

「なんじゃ、この男は」

「怪態な」

「気が狂うてか」

「癲癇じゃろ」人々から眉をしかめられて、平次郎はハッと思った。

(気のせいだ)なんで、お吉が生きているはずがない。しかも、国主、城主、侍衆などのいならんでいる本堂の上に、親鸞の側近くに従いているわけなどが絶対にない。

(しまった……自分で自分の罪を口走るようなものだ)彼は、こそこそと、人の後ろへかくれ込んだ。