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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

範宴は、不安になった。

寝床へ入っても、範宴は、眼をぱちぱちさせていた。夜半ごろから、窓の小障子に、さらさらと雪のさわる音がしていた。

範宴は、起きだして、そっと庫裡の方へあるいて行った。雨戸のない濡れ縁には、雪がまるく溜っていた。

慈円僧正は、未明のうちに、脚絆をつけて身支度を済ましていた。供に従いて行く者と、後に残って見送る者とが、山門の両側にならんで、列を作っていた。

夜来の雪は、明け方にかけて、風を加えて降りしきっている。僧正は、笠のふちに手をかけて、

「さらば――」と、一同へ訣別を告げた。

三人の弟子は、かいがいしく身をかためて、師僧の供について歩きだした。すると、山門を降りた所の木蔭から、思いがけない範宴が、藁沓をはき、竹の杖を持って、ふいに横から出て、供の僧のいちばん後に尾いてあるきだした。弟子僧たちは驚いて、

「おや、おまえは、どこへ行くつもりだね?」

「叡山へ、お供して参ります」

「冗談じゃない。叡山というところは、お小僧なぞの行けるところではなし、また、掟として、年端もゆかぬ者や、入室して、半年や一年にしかならぬ者の登岳はゆるされぬ」