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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

「なぜ帰らない」

「でも私は、国助さんと、どんな苦労でもしたいのです」

「親の許さぬ男に?」

「かんにんして下さい」

「ならぬっ」と老人は一喝して、

「こんな男に、見込みはない。親のゆるさぬ男の家へ入りこんで、仲よくでも暮していることか、町の衆が、笑っている。嫌ならよし、親の威光でも、しょッ引いて行かねばならぬ」

憤怒して、老人は、娘の体を二、三尺ずるずると門の方へ引きずり出した。

皺の深い唇のまわりに、ばらっと、針のような無精髯の伸びているその老人の顔と、物言い振りを、それまでじっと傍観していた性善坊は、その時始めて口をひらいて、

「待て。――おぬしは、六条のお館に奉公していた箭四郎じゃないか」といった。

「げっ?」老人は開いた口をしばらくそのまま、

「…………」小皺の中の眼をこらして、いつまでもいつまでも性善坊の顔を見つめ、一転して、その側にきちんと坐っている範宴の姿を見て、

「や、や、や……」萱乃の襟がみから手を離して、そこへ、べたっと坐ってしまった。

「お――。……おぬしは元の侍従介?」

「介じゃよ」

「では、これにお在すのは……」

「わからぬか、あまりご成長あそばしたので、見違うたも無理じゃない。