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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

「見らるる通り、わしは今、朝のお勤めをしている途中、これから勤行の座にすわり、寮の日課をすまさねば、自分の体にはなれぬのじゃ。……それを了えてから訪ねてゆくほどに、おもとは、弟の看護をして下さるように」

「では、来て下さいますか」梢は、ほっとした顔いろでいった。兄は、きっと怒るであろうと弟からいわれていたものとみえ、範宴の返辞を聞くと、迷路に一つの灯を見たように彼女はよろこんだ。

「参ります。何でまた、捨てておかれよう。きっと行くほどに、弟にも、心をつよく持てといってください」

「はい。……それだけでも、きっと、元気がつくでしょう」

「では……」と範宴は、学寮の朝の忙しさが思いだされて、急に、水桶を担いだした。

すべらぬように藁で縛ってある足の裏は、冷たいとも痛いとも感覚は失せているが、血がにじみ出していた。

真っ黒な天井の下に、三つの大きな土泥竈が並んでいた。その炊事場には、薪を割る者だの、襷がけで野菜を刻んでいるものだのが朝の一刻を、法師に似げない荒っぽい言葉や唄をうたい交わして働いていた。

範宴が、水桶を担って入ってきたのを見ると、泥竈のまえに、金火箸を持っていた学頭が、