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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

そして絶えず、死への誘惑に迷っている影が、朝麿にも、梢にも、見えるのだった。

範宴は、そのあぶない瀬戸ぎわにある二人の心を見ぬいて当惑した。沙門の身でなければ、当座の思案だけでもあるのであったが、きびしい山門のうちへ二人を連れてゆくわけにはゆかないし、このまま、この風の洩れる汚い板屋に寝かせておけば、弟の病勢がつのるのは眼にみえているし、その病気と、心の病気とは、何時、死を甘い夢のように追って、敢ない悔いを後に噛むことに立ちいたるかもわからない。

すると、外に、その時跫音がしてきた。ここの木賃の亭主であった。無遠慮に入口を開けて、

「沙門さん、おめえは、法隆寺で勉強している学生かい?」と訊くのであった。範宴は、自分の顔を見て問われたので、

「さようでございます」と答えると、亭主は、

「そして、この病人の兄弟ということだが、ほんとかね」

「はい」

「じゃあ、木賃の代だの、薬代だの、病人の借財は、もちろん、おぬしが払ってくれるだろうな」答えぬうちに、亭主は、ふところから書きつけたものを出して、範宴の前へ置くのであった。

八

もとより金などは持ちあわせていないけれど、弟の借財があるというならば、性善坊に相談したうえで、どうにでもしなければなるまいと、四、五日の猶予を頼むと、亭主は首を振って、