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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

……その由、鞍馬へ、おつたえして賜われ」吉次は、ちょっと、不満な顔いろを見せたが、押しいただいて、ふところに納めながら、

「そのほかには?」

「おことばでよいが――くれぐれも、亡き義朝公、源家ご一門のため、回向おこたらずご自身も、朝暮に仏道をお励みあって、あっぱれ碩学とおなりあるようにと……。おん奥の方、また、お館様からも、ご伝言にござりまする」

「承知つかまつりました。では、これで……」吉次は、辞して、元の裏門から外に出た。

宵よりも、星明りが冴えていた。夜は通る人もない日野の里だった。

「なんのこった……」苦労して、訪ねてきただけに、期待が外れて、彼は、がっかりした。

吉光御前の思いやりと、自分や自分の主人秀衡が考えている思いやりとは、同じ遮那王にもつ好意にしても、まるで、性質がちがっていたことを、はっきり、今、知った。

自分の主人、秀衡は、遮那王を、仏界から下ろして、源氏再興の旗挙げをもくろんでいるのであるし、吉光御前や、有範朝臣は、あべこべに、遮那王が身の終るまで、鞍馬寺に、抹香弄りをしていることを、祈っているのだ。

なるほど、それは、遮那王の身にも、彼の従姉にも、無事な世渡りにちがいない。