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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

(歌よみか。歌よみなら、牛糞町に住ませて置くのが、ちょうどよろしいのだ)と、視られているかのようであった。

生活力のない歌所の歌人たちは、それに対して、不平の不の字もつぶやけなかった。

「ちっ」範綱は、机をわきに寄せた。

硯に、紙に、たかっていた秋の蠅が、彼と共に、うるさく、起つ。

「奥所――」妻をよんで、

「粟田口の慈円様へ、久しゅう、ごぶさた申し上げているで、おあずかりの歌の草稿、お届けいたしながら、ご機嫌をうかがってくる」

「きょうは、ご舎弟様が、お見え遊ばしはしませぬか」

「御所の戻りに、寄るとはいうたが……。よいわ、いずれ、帰りには、日野の有範の邸へ立ち寄るほどに、そこで、会おう」

日野へ寄るというと、彼の妻は、

(またか)というように、微笑んだ。

子のない彼は、弟夫婦の邸に、子が生れてからというもの、三日に一度は、どうしても、訪れてみねば気がすまないらしかった。

「行っていらっしゃいませ」妻の声をうしろに、籬の菊花に眼をやりながら、我が邸の門を出ると、

「やあ、兄上」末弟の宗業朝臣が、ちょうど、門前に来あわせて、

「どこへ、お出かけですか」と、肩をならべた。