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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

――平安期のころ、仏徒の腐敗をなげいて、伝教大師が、叡山をひらき、あまねく日本の仏界を照らした光は、もう油がきれてしまったのでしょう、現状の叡山は、もはや、われわれ真摯な者にとっては、立命の地でもなし、安住の域でもありません。……で、私は、迷って出たのです、しかし実社会に接して、なまなましい現世の人たちの苦悩を見、逸楽を見、流々転相のあわただしさをあまりに見てしまうと、私のような智の浅いものには、魚に河が見えないように、よけいに昏迷してしまうばかりで、ほとんど、何ひとつ、把握することができないのであります」

法印の声は、切実であった。

若い範宴は、感激のあまり、思わず彼の手をにぎって、

「聖覚どの。あなたがいわるることは、いちいち私のいおうとするところと同じです。二人は、ほとんど同じ苦悶をもって同じ迷路へさまよってきたのでした」

「七日七夜の参籠で、範宴どのは、何を得られたか」

「何も得ません。飢えと、寒気とだけでした。――ただ、あなたという同じ悩みをもつ人を見出して、こういう苦悶は自分のみではないということを知りました」

「私はそれが唯一のみやげです。