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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

「この附近にも、野盗が横行するとみえますな」

「いや、どこか、他国の者らしいのです。私が、声をかけると、賊は、よほど大胆なやつとみえて、驚きもせず、おれは天城四郎という大盗だとみずから名乗りました」

「えっ、天城四郎ですって?」

「ごぞんじですか」

「聞いています。どこの街道へもあらわれる男で、うわべは柔和にみえますが、おそろしい兇暴な人間です」

「――と思って、私も、怪我をしてはつまらないと思い、わざとていねいに、ここは清浄な仏地であるから、ここで悪業をすることだけはやめてくれと頼みますと、天城四郎はせせら笑って、さほどにいうならば、まず第一に、醜汚な坊主どもから先に追い退けなければ、仏地を真の清浄界とはいわれまい。坊主が、偽面をかぶって醜汚な行いをつつんでいるのと、俺たちが素面のままでやりたいと思うことをやるのと、どっちが、人間として正直か――などと理窟をならべるのです。これには、私もちと返答にこまりました」

「そして……どうしました」

「理窟はいうものの、やはり、賊にも本心には怯むものがあるとみえ、それを捨て科白に、ふたたび、女を引っ張って、どこへともなく立ち去りました」