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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

堂塔伽藍はぬけ殻であった。ひとり叡山ばかりがそうなのではない。

求めるものが求められないのみか、さまよえば、さまようほど、彼の迷いは濃くなってゆく。

二年あまりを、そうして、あてどもなく疲れあるいた彼は、ふいに、青蓮院の門前にあらわれて、取次を乞い、見ちがえるほど痩せおとろえた姿で、師の慈円僧正のまえに坐った。慈円は、ひと目みて、

「どうしたのじゃ」と驚いていった。

範宴は、あまりに消息を欠いたので、師の房を見舞うつもりで来たのであるが、その師の房から、先に見舞われて、

「べつに、自分は変りもございませんが……」と答えた。

彼のつよい精神力は、ほんとに、自分の肉体のおとろえなどは、少しも気にしていなかったのである。

「かわりはないというが、ひどく痩せたではないか。第一、顔の色つやも悪い。叡山にいたころのおもかげもありはしない」

「そう仰せられてみますと、あるいはそうかもしれませぬ。どうか、一日もはやく生涯の――いや人類永劫の安心と大決定をつかみたいと念願して、すこし修行に肉体をいじめましたから……」

「そうであろう」慈円は、傷ましいものを見るように、彼の尖った肩や膝ぶしを見まもるのであった。