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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

峰阿弥は、

「かしこまりました」一礼して、撥を把り直した。

四絃をぴたと構え、胸を正しくのばすと、芸の威厳といおうか、貴人の前も忘れたような彼だった。このとき位階や権門も芥のようなものでしかなかった。しいんとしずまる人々を睥睨して――

祇園精舎の鐘のこえ

諸行無常のひびきあり

沙羅双樹の花のいろ

生者必衰の理をあらわす

おごれるもの久しからず

ただ春の夜の夢のごとし

猛き人もついには亡びぬ

ひとえに風のまえの塵のごとし

遠く異朝を訪ぶらうに

秦の趙高

漢の王莽、梁の朱、唐の禄山

旧主先皇の政にもしたがわず

楽しみを極め

諫めをも思い入れず

天下の乱れをも悟らずして

民の愁いも知らざりしかば

みな久しからずして

亡じにし者どもなり

近く本朝を慮るに……

峰阿弥の顔は怪異にさえ見えてきた。撥は四絃を刎ね、黄桑の胴を恐ろしい力でたたいた。彼はもう芸以外に何ものも天地にないように額に汗を光らしてくる。聞く人々も彼の芸の中にひきこまれて我に回ることができなかった。かの白楽天の琵琶行の話を江の湖上に聞くような気持に囚われていて、その間は無心な燈火さえうっとりとしているのであった。

間近くは六波羅の入道