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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

どう見ても貴族の娘だ、たけた五つ衣の裾を端折って、侍女もついていた。二人して泣いてなにかせがんでいるらしい。俺は、樹蔭にかくれて、罪なことだが、そっと見ていた。男女の話こそ聞えなかったが、それだけの事実でも、範宴がいかに巧みな偽瞞者であるかは分るじゃないか。あいつに騙されてはいかん」

「そうか。さすれば、遷化するとか、京の六角堂へ参籠するため、夜ごとに通っているなどということも」

「嘘の皮さ。通っているとすれば、それは今いった女の所へだろう」

「なんのこった」

「この社会に生きた聖などはない」

「範宴でさえそうとすれば、吾々が、坂本へ忍んで、女や酒を求めるのは、まだまだ罪の軽いほうだな」

「なんだか、社会がばからしくなってきた。この叡山までが嘘でつつまれていると思うと――」

「今ごろそんなことに気がついたのか。どれ、行こうぜ……」

「晩にはまた、坂本へ抜け出して、鬱憤を晴らせ」薪を担いで、人々は立ち上がった。いつもの薪よりは重い気がするのだった。

八

峰づたいに、十町ほど歩いてゆくと、薪を担いでいるその群れへ、谷の方から呼ぶ者があった。

提婆が、耳にとめて、

「待て待て、誰か呼んでいるぞ」