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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

「そうだ」

「師弟の心情としてそうあるはずだ。待っておれ、綽空殿に、話してきてやる」

「いや」あわてて覚明は手を振った。

「綽空様からは、必ずとも、ここへも訪ねてくることならぬといい渡されているのだから、今日、俺がここで労いているのでも、あるいは、お叱りの種となるかも知れぬ。どうか、上人へおすがり申して、お声をかけて戴きたいのだ」

「ははは。木曾殿の猛将といわれた太夫房覚明も、法の師には、気が弱いの。よしよし、上人にお打ちあけして、貴公の頼みをとりなしてみよう」

「たのむ」覚明がふたたび鍬を持って立つのを後にして、蓮生は、上人のいる室のほうへ歩いて行った。そして、壊れたつま戸や屏風を立てまわして端居している法然の前へ行って、何かしばらく話しているらしく見えた。

六

「綽空どの」屋根を仰いで、念阿が呼んだ。

「――上人が、お召しですぞ」と、下からいう。

綽空は、屋根から下りて、流れで手足を洗ってから上人の室へ行った。熊谷蓮生がそばにいる。

「なにか御用ですか」

「うむ」上人の顔は明るい。ゆうべの暴風に禅房をふき荒されてかえって自身の風邪の気はすっかり癒えたような顔つきである。