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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

「誰に」

「九条殿へ、あの月輪殿へ」

「月輪殿へさしあたって書状をもって申しあげる用もないが」

「あるっ」

「…………」

「綽空、おぬしは、世間をうまく誤魔化したつもりだろうが、この四郎は騙されぬぞ。月輪の姫とのことで、ぼろを出すと叡山に逃げこみ、叡山もあやうくなると吉水へかくれ、そろそろ、世間のうわさが下火になったと思うと、またぞろ、岡崎の一ツ家に移っている。なかなかうまい! だが四郎の眼力はそんな魔術にはかからぬぞ」

「何をいっているのか、綽空には一向にわからぬが」

「よしっ、その面の皮をひん剥いてやるから待て。蜘蛛太、てめえの見たことを、この売僧に話してやれ」

「へい」待ち構えていたように、蜘蛛太は手下の中から怪異な顔を出した。

六

そこで蜘蛛太が頭領の四郎にかわって野良犬がほえるようにいうことを聞くと、この草庵へ毎日のように通ってくる女がある、のみならず女は、綽空の留守には、洗い物をしたり夜の支度までして帰る。その帰るところを尾行てみると、九条の月輪殿のお館で、女は、姫の侍女の万野だということまで洗ってあるのだ――といって力み返るのだった。

「おぬしと、姫とが、きれいに手の断れたものなら、姫の侍女が来て水仕業の世話まで焼くはずはねえ。