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しんらん
親鸞
吉川 英治
「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页
「この蛆虫ッ」と、腕を伸ばすが早いかその襟がみを前へつかみ寄せて、眼よりも高くさしあげると弥次馬の上へ、
「くたばれっ!」と抛り投げた。
群集は、わっとそこを開いて、四坪ほど大地の顔を見せた。投げられた法師は鼻の頭を柘榴のようにして、人のあいだへ這いこんだ。
大坊主と、痩せた僧は、その隙間に、輦のそばへ走り寄って、
「お師様っ」
「綽空様っ」轅にすがりついて、顔を、汗と涙でよごしながら叫んだ。
「おお、性善坊に、太夫房覚明か」綽空は、初めて、唇をひらいた。彼の眼にも、きらと、涙が光った。二人は、焔のような呼吸で、
「おゆるしなく、参りました。けれど、何でこれが他所事に見ておられましょうか。どうぞ、吉水の御門前まで、お供の儀、おゆるしくださいませ」性善坊がいうと、あの木曾殿の荒武者といわれた覚明も泣かんばかりに、
「おゆるし下されい。いや、おゆるしがなくとも、輦について参りますぞ」と、訴えた。
六
おうとも、否とも、綽空の答えを待っている二人ではなかった。轅の両側にわかれて、
「雑人、鞭を貸せ」覚明が、牛飼の鞭を奪って、百万の魔神もこの輦の前を阻めるものがあれば打ち払っても通らんと巨きな眼を瞋らすと、性善坊も、八瀬黒の牡牛の手綱を確乎と把って、