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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

わけても播磨房弁円は、

「末法だ、末法だ」と、人に会えば、必ずその人に向って、綽空のことを、悪しざまにいい、もしその者が綽空の弁護でもすれば、敵のように喰ってかかって、その者が、

「まったくだ! まったく貴公のいう通りだ」

と、うなずかなければ、承知しなかった。

今日も――輦の軌に轢かれて、尻尾を半分失った例の大犬の黒をつれて、五条の裏町のきたない酒売店の土間で、弁円が、そこの亭主を相手に、頻りと、悲憤をもらしていると、隅のほうで、さっきから黙ってちびりちびり飲んでいた野武士ていの男が、

「修験者どの」と、呼びかけた。そして、

「なかなか、貴公はおもしろいことをいう男だ、一杯献じよう」と、杯をほして、彼の方へつきだした。

三

「修験者は、どこの方人か」

「聖護院の御内」と、弁円は一語で答えて、

「――貴公は」

「浪人だ」

「平家の落ちぶれか」

「いや、源氏の――」

「源氏の侍が、浪人しているのはおかしいではないか。今しも、源氏の全盛は、ひところの平氏に取ってかわっておる」と、酒杯を返して、じっと、相手の顔を見すえた。その浪人というのは、天城四郎であった。

「武家奉公は、もう飽いた。