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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

心蓮はここを出て行ったのである。

――それが、忽然と、またこの門へ帰ってきたというのだ。

人々は、法然が、それに対してなんというであろうかと、推し測るように顔を見ていた。――と、法然は、

「通しなさい」そういってから、すぐ、

「疲れておるようであったら、休ませて、粥など与え、その後でもよいぞよ」しかし、心蓮は、すぐ導かれてそこへ入ってきた。

「お……」なつかしい旧友。

久しく仰ぎ見ない師の房。

この柱、この天井、また庭の樹々――

心蓮は坐ると、瞼を赤くしてしまった。何かいおうとしたが手をつかえると、それなりしばらく黙ってしまった。

「心蓮か」

「はい……戻って参りました……。面目もございませぬ」

「よう戻ってこられた」

「穴にでも入りたい心地がいたしますが……。ほかに、心蓮の行く所はございませぬ。やはり、この吉水禅房のほかに、往生の床はないと、こんどはよく分って戻って参りました」

「よい修行をされたとみえる。この三年、お汝はどこにおられたぞよ」

「ずっと、都遠く離れて、笠置の山里のさる豪家の持っている山の中に、一庵を借りておりました。一日一度、食物を運んでもらうほか、人の顔も見ず、夜も昼も、念仏に送って、まったく世間の音から離れ、草が伸び、木の葉が散るのを見て、月日を知るような生活をしておりました」