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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

「はい、そのようでございまする」

「今はどこにおる」

「亡くなりました」

「え。――この草庵で」

「皆の者が、手をつくしてやったかいものう、二日ほどの大熱に、昏々と、うわ言をいいながら」善信が沈黙して、ふと眉を曇らせたのは、その無意味な犠牲者に対して、心を傷めたばかりでなく、師上人の身に、やがての禍いがなんとなく予感されていたからであった。

叡山や、高雄や、南都の反念仏宗のものが、こぞって法然を誹謗し、吉水の瓦解を工作し、打倒念仏の呪詛が、一日ごとに昂っているという取り沙汰は、善信も旅のあいだに、眼にも見、耳にも聞いていたことであった。

だが、そういう反動は、いつか来るものと、これは自分よりも師の上人がよう知っておられる。

元より善信も、あえて、巷の風評に、にわかな驚きはしなかった。――けれど、今、戸外に呶鳴っている法師たちの悪罵には、時こそよけれと、いい機会をつかまえて襲せてきたらしい気色が濃厚である。

(……困ったことを)誰のことよりも先に、彼は、師の上人への禍いを気づかうのであった。

静かに立ち上って、

「わしが会おう」歩み出してゆく良人を見て、玉日は顔いろを失った。