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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

「……じゃあ、ご存じないのも無理はない。きょうは、鹿ヶ谷へ、わざわざ吉水のお上人様が出向いて、私たちのために、有難いお勤めをして下さるのです」

「あ……吉水の」

「ご存じですか」

「御所のうちでも、おうわさはよく聞いておりますが」

「それで、こうしてみんな、鹿ヶ谷へ行くのですよ」遅れては――と心の急くらしい足つきで、女は、そういうともうふたりの先を歩いていた。

三

なるほど――そう知ってから、道をゆく人々の口から洩れる言葉に耳をとめていると、

「えらい人出じゃの」

「何せい、お上人様のおすがたは、この春から、初めて拝むのじゃ、冬ごろから、久しく、お病気であったからの」

「もう、すっかり、お健康かになったかの」

「さ……お年がお年じゃで、すっかりとはゆくまいが」

「衆生のためには、わが身もない、病気もいとわぬと、こういう意気の法然様じゃによって、押して、お出ましになるのじゃろう」

「この暑さに――」

「もったいないことよ」

「でもきょうの専修念仏に、このように、多くの人が、お上人様の徳を慕うて集まるのを御覧じたら、さだめし、ご本望じゃあるまいか」

「そねむのは、叡山の衆や、南都の坊さまたちじゃ」