轻松读懂日语经典作品
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しんらん
親鸞
吉川 英治
「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页
時折、雨戸のふし穴へ眼をつけたり、じっと、耳を寄せたりしながら、彼らしい神経を研ぎすまして、視覚、聴覚、嗅覚、あらゆる官能を働かせていた。
――すると。一棟の戸のうちから嬰児の声がもれてきた。乳でも欲しがるように泣きぬくのであった。彼はハッと立ち竦んでいる。
「この棟だな、女のいるのは」と床下へしゃがみ込んだ。
誰か、その声で起きたらしい。しきりと、夜啼きする嬰児をあやしているようであったが、やがて、雨戸を開け、
「オオ、泣くな、泣くな……」縁の上から、嬰児に尿をさせ初めた。
霜の立っている土の上に、無心な嬰児の尿が湯みたいにそそがれた。四郎は狼狽して、
「あっ……」奥へ身を退いたが、その弾みに、床下の横木に頭をぶつけ、眼から火が出たような痛さを、顔をしかめて怺えていた。
五
「ひどい奴だ」頭の上の戸が閉まったので、彼は床下でほっとしながらつぶやいた。
「……坊主め」そんな些細な――偶然なことにも――彼の眼は遺恨をふくむのだった。
「――見ていやがれ、間もなく、この吉水の禅房も、ぺしゃんこにしてくれるから」
嬰児の泣き声がするようでは、この一棟の房にこそ、女人がいるに違いないと、彼は、根気よく、耳をすましていたが、時おり、床下へ洩れてくる人声や跫音は男のものであって、女のいるらしい気配はなかった。