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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

(はてな? どこへ行くのか……)と、眼をつけていた者がある。

吉水禅房や、岡崎を初め、あらゆる念仏門系の法壇のある所を、所きらわず歩きまわって、狩犬のような鼻を働かせていた播磨房弁円であった。

四

あれほど、月々の法会や、念仏の唱導を、活溌にやっていた鹿ヶ谷の法勝寺が、近ごろ、はたと戸をとざしている。住蓮か安楽房かが、病気のためだとは称しているが、弁円は、そのうわさを麓で聞くと、すぐ、

(こいつはおかしい)と直感した。

(病気なら、吉水から、誰か代る者をよんできても、説法日の法筵ぐらいは開かれる。それに、住蓮も安楽も、少しも麓に姿を見せないというから、何か、べつな理由があるにちがいない)弁円が、鹿ヶ谷へ目をつけだしたのは、そんな動機からであった。彼は、山伏のすがたではまずいと考えた。笈や杖や服装をすっかり解いて、木樵か農夫かと思われるように身装を代えた。

山刀を一本さして、弁円は毎日山をあるいていた。法勝寺と山荘のまわりをうろついて、裏へ迷いこんだり、夜は床下へ這ってみたり、種々に探ってみたが、

(はてな?)と、思われるだけだった。

もう鈴虫も松虫もいなかったのである。