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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

「む」

「夫婦の申すには、聖人様に、念仏の道を諭していただいてからは夫婦の気持もすっかり変り、家は明るく、良人はよく稼ぎ、病人も絶えて、近ごろは、以前のわが家は、夢のようにおぼえ、朝夕、聖人様のお徳を拝んでおりまする。――かようにうれし涙を流して申しまして、こんな有難い教えを、どうかして、近所の衆、近郷の衆へも知らせてやりたい、どうか、私に今日は善根をさせてやると思し召して、説教をしてくれとせがみまするゆえ、かねて、お代官から布教はならぬと禁じられてはおりましたが、あまり熱心に乞われるままに、その家の近くの松の木の幹へ、所持の御名号を掛けて、拙ない法話を初めたのでございました」

二

生信房の真面目な話しぶりに、人々も耳をすましていた。

そして、彼の前身を知っているほどの者はみな、心のうちで、

(この御房も、よくここまで変ったもの――)と密かに感じ入っていた。

生信房は、そっと、師の面へ眸を上げ、

「そうして、私が、説教をしておりますと、その説教なかばのことでございます」と、話しつづけてゆく。

「折わるく、もう稲田の検見でもございますまいが、代官の萩原年景が、七、八名の家来をつれて、そこの並木へさしかかって参りました。