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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

検使役三名は、内匠頭を小書院に呼びだして、

『上意――』

の奉書を申し渡した。

すぐ、検使以下、すべて、各※(二の字点、1-2-22)の位置につく。

内匠頭は、謹んで上意をおうけした後、水裃に、同じ無地の水袴をつけた。

袴の紐を、三度まで結び直していた。――少しでも乱れていては、恥辱である。又、死骸となって相見えるであろう家来共に、やはり最期には心が乱れたかと思われては恥かしい。健気な妻にも、こう結んだぞと、見せて欲しい。

『よし』

と、気に入った結び目をながめて、内匠頭は、坐った。

ふしぎな程、清々しい。

ふと、妻が立ててくれるいつもの淡茶の味を思いうかべた。――今頃である。つかれて帰る夕方を慰めてくれる一服の茶。何年のあいだの夫婦の習慣であったろう……。

『浅野内匠頭!』

静寂を破って、呼び出しの声がかかる。

『――お支度っ』

峻厳な声が、どこからか促した。

静かに、検使一統の席へ、目礼して、

『……御案内を賜われ』

すっと、水裃が、水のように立った。

導かれて、小書院の廊下を、五歩、十歩、袴の紐下に両手をあてて、やや俯向き加減に、運んでくると、藍を落したような縁先の夕闇に、何者か、凝と、飛び縋らないばかりな二つの眼をもって、大地に手をついているのであった。