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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

年齢の相違

という口実を含めて、昼の様子を窺わせにやった。

すると、四方庵の取次は、

(主人は今日、吉良様のお茶席へ招かれて不在でございますが、おさしつかえなくば、茶入はお預かり申して置きまする)と云う返事だった。

一方、松坂町に見張らせてある偵察組のほうからも、

(宗※(「彳+編のつくり」の「戸」に代えて「戸の旧字」、第3水準1-84-34)の駕籠が、確かに、門内へ通った)

と云う報らせ。

もう間違いない!

こよいこそ、吉良上野介は松坂町の屋敷に眠るだろう。――折も折、亡君の命日、しかも大江戸はこの白雪万丈。

ゆうべから同志の人々は国許へ手紙を書いたり、母や妻や知己へ遺物を送り出したりするので忙しかった。それぞれ、借家にいる者は、道具屋を呼んで所帯をたたみ、家主へは、

(遠国へ立つので、今宵はよその身寄の家へ泊るから――)と断って、近所の借銭や店賃も、滞りなく片付けて来ている。

誰も彼も、急にからりとした身の軽さを覚えた。肉親との絆も、世間とのいさくさも、総てのものから離れたという、生涯にない感銘をその時持った。――この先はただたった一つの事をする以外に心をつかう事はないのである。