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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

音頭とり

『参ろうッ』

憤然と、数右衛門は、連れの惣右衛門を促して席を蹴った。

『あいや』

と、十内は抑えて、

『酒席へ来て、立ち話しのまま、一献も酌まずに、別れるという法はない。まず坐れ。……妓、杯、杯』

無理に、数右衛門の手へそれを持たせると、

『十内殿』

『なんだ、怖い眼をして』

『大夫にも、伝えてくれい。二度とは、会わん!』

『そうか、やむを得ない。その通りに申しておこう』

『すべては、もはや、これだっ』

大事の瓦解を眼にも見よとばかり、憤りをこめて、持っていた朱盃を、ばりばりっと、膝の上で握りつぶした。

音頭とり

廓はなおさら、町でも、村でも、この頃は夜踊りが盛んである。流行り病のように、夜になると、辻々に、音頭が聞える。

名古屋から流行って来たので、名古屋音頭と初めは呼んだが、京には都音頭ができ、伏見には、道念踊りができ、華奢な衣裳を着た廓の男女が、かぶり手拭、あるいは編笠で、団扇を手に、踊りの輪を描いていた。

さあさ 踊ろよ

踊り候え

人の世は

夏の夜も

みじかに候ぞ

ほととぎす

ヤヨ

ほととぎす啼く

宵のまに

さあさ 踊ろよ

踊り候え

廓の仲町の往来に、縁台を出し、その上に、一人の音頭取りが、顔に扇子を当てて謡っている。