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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

布陣布石

この十月になって。

先に、京都を立った大石内蔵助の一行は、鎌倉へ着き、そこで吉田忠左衛門たちと落合って、こっそり、川崎在の平間村の農家まで来て、旅装を解いていた。

詳しく云えば、武州橘樹郡平間村の百姓、軽部五兵衛というものの住居の一部で、ここには前に、富森助右衛門が引き籠っていたこともあり、村の子供たちに、習字読本を授けていた縁故から、その跡を急に手入れして内蔵助を迎えたのであった。

堀部が来る。片岡が見舞う。

与五郎も、右衛門七も、三、四たび其処へ行った。

内蔵助もまた、時折、江戸表へ出て、名も垣見五郎兵衛と変え、新麹町五丁目に兵学教授の看板を出している田口一学――の吉田忠左衛門の家へよく訪れた。

兵学夜講――

とか、また、今夜は、

孫子輪講――

があるとか称って、その度ごとに、江戸の同志が集まった。

然し、これもすぐ人目に立つ。

殊に、内蔵助の身辺は、あぶない気がする。上杉、吉良の両家の剣客が、頻りと立ちまわっているという風説もあるのだ。

(討入)

と云う機会や方法を考究しているまに、先方から、どかっと不意に斬り込んで来ないと誰が保証できよう。