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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页
生きてる古武士
したが、その考え方は正しくない。吉良様を守ることは、上杉家の社稷を護ることなのだ。その旨をよく説いて、八月中旬までに、是非とも、確かな剣客共を連れて来て欲しいのじゃ』
『八月中旬に、何事かあるのでござりますか』
千坂兵部は口をつぐんだ。庭面や廊下先に、人の気勢がないかあるかを、耳を澄まして確かめるためだった。やがて、ずっと低い声でこう云った。
『――吉良様がお替地になった。呉服橋のお邸を引き払って、八月二十日迄に、本所の松坂町へお引越をせねばならぬのじゃ。どうしても、その折には、警固が要る』
生きてる古武士
二、三日前に石辰の職人は、泉岳寺へ石碑を曳きこんで、礎石から碑の組立てを済ましていた。
六月の二十四日は、内匠頭長矩の百ヵ日目に当る。早朝に、質素な女駕籠と幾人かの供人が、忍びやかに参詣して行った。内匠頭夫人の、今は髪も切って変り果てた姿が、駕籠へ忍ぶ時ちらと見えた。
芸州家の代参、戸田家の者など、交に午前のうちに見えては帰って行ったが、まだ浅野大学も謹慎中であるし、幕府に対する憚りがあって、五万石の大名ともある人の百ヵ日としては寂しいものであった。