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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

「日の出」1935(昭和10)年1月号~1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 页

青空文庫

鵺を射る

――尠くも表面だけは、平穏に。各が、それ自身の生活の方針に忙しいように。

鵺を射る

年は明けた。――元禄十五年へ。

池田久右衛門と名を変えて、内蔵助は、この冬を、炬燵に暮らしていた。但馬から呼びよせた妻のお陸や、吉千代や、大三郎もそこにいた。長男の主税が、いつも団欒の中心だった。明けて十六になるこの少年は、背が五尺七寸もあった。父の内蔵助よりは巨きいのである、いつも笑いの種になった。

弟の吉千代が、

『凧を張ってよ、凧を』

と、その巨きな兄にぶらさがって強乞んでいた。

『後で――。な、よい子だ』

『いや、いや!』

吉千代は、駄々をこねる。主税が、

『勉強もようせず、遊ぶことばかりしておると、叱られますぞ。お父上に、訊ねてみい』

と云うと、吉千代は、父の姿をさがし廻った。

内蔵助は、邸内の畑へ出ていた。二月の陽ざしが、そこには明るく暖かかった。畑はすっかり土をならされて、沢山な石と材木が入っていた、大工は、墨を引き手斧をふるっている。鉋板から走る鉋屑が、いっぱいに其処らを埋めていた。

内蔵助は、焚火のそばに腰かけて、大工の仕事を眺めながら、頻りに、木口の鑿をやかましく云う。